植田 実
うえだ・みのる 57年福岡県生まれ。05年よりフェドカップチーム監督。
柳川商業高校で74、75年全国高校総体団体戦と個人戦ダブルスで優勝。筑波大学卒業後、朝日生命で日本リーグ5年連続優勝。02年12月より2年間、日本オリンピック委員会の海外スポーツ研修員としてスペインバルセロナ留学。 04年アテネオリンピック日本代表監督、05年フェドカップチーム監督就任。びわこ成蹊スポーツ大学教授。
 バルセロナ留学中には、F.C. バルセロナのカンプ・ノウ・サッカースタジアムに何度も足を運んだ。さすがは、サッカー王国スペイン。9万8千人を収容するスタジアムが満員になることにまずは驚かされた。有明コロシアムの10倍のキャパシティだ。この多くの観客を前にプレーすることで、選手たちは成長してゆくのだ。
 観客には高齢者も多い。彼らの試合の見方が興味深い。もちろん自分のホームチームを応援をし、相手チームをヤジる。しかし、ホームチームの選手のプレーが気に入らなければその不満を声にする。プレーが緩慢だったり、走り込めば取れそうなボールに食いつかなかったりすれば、厳しくしかる。観客が玄人の目を持っているから、選手もいい加減なプレーができない。
 では、テニスの場合はどうだろうか?
テニスをみることが文化となるような玄人の見方を伝えたい
 ウィンブルドンやUSオープンの満員のセンターコートでも、称賛もあればブーイングもある。近年は日本の有明コロシアムでも素晴らしいプレーが多くみられる。フェドカップでは2006年のワールドグループ入りを賭けたオーストリア戦での応援はうれしかった。男子のデビスカップも同様で、国別対抗戦で日本テニスを応援しようという機運は、確実に高まってきている。
 それでも、日本は世界でも有数のテニス愛好家の多い国であるにもかかわらず、テニスをみる人の数がまだまだ少ない。特にテニスを愛しプレーしている人々に、テニスをみることの楽しさ、意義を少しでも伝えたいと思っている。
テニスをラジオで楽しむという文化
 ウィンブルドンではラジオでもテニスの放送をしている。「バックハンドのアプローチがダウンザラインへ!」などと、アナウンサーも結果報告だけではなく試合の流れを熱く伝える。リスナーはそれを聴いて、試合の様子をイメージすることができる、理解することができる。そういう文化が根付いているということがとてもうらやましかった。日本でも相撲や野球のラジオ放送はあるし、聴く人はその試合の流れを十分イメージすることができている。テニスをラジオでも体感できる文化を日本でも育てたい。そのために力を尽くしたいと思う。
全身でテニスを感じるという
楽しみ方
 テニスの試合会場では、さまざまな刺激を受けることができる。静寂と歓声という大きなコントラストの間に、テニス独特の音のサイクルがある。
 審判のコールの後のサーブの音。ラケットがボールを打つ音があり、その音が反響する。テニスシューズのソールがコートを蹴る音が一瞬止んで、リターンのボールの音。緊迫したラリーに息をひそめ、ウイナーでボールの音が終わる。拍手と歓声を肌に感じ、そして審判のコールの後、新たな静寂へ。
 この音のサイクルを、目を閉じて感じてみる。割れるような拍手や歓声、かん高いテニスシューズの音までが心地よく、まるで音楽のコンサートのようだ。そういう不思議な魅力が試合の会場には存在する。
年に一度の田園コロシアム
 私は大学生の時、デビスカップをみるために筑波から田園コロシアムまで何度も出かけた。スター選手を間近でみる数少ないチャンスだ。
 選手はそれぞれ、プレーのスタイルもキャラクターも個性的だった。それが、テニスをみることのおもしろみでもある。
 九鬼潤さんはベースラインプレイヤー。相手をネットにおびき寄せてのパッシングショットがみどころ。神和住純さんは、サーブアンドボレーの連続。坂井利郎さんはオールラウンド。コートの上を自由自在に動く、あるときは勇猛果敢に攻める。
 自分ではできないようなことを目の前でみることができる。そのためになら遠くからでも足を運ぶ。彼らのプレーをみるだけでもワクワクしたし、たくさんのことを学んだ。
「ビデオカメラはいつでも持ち歩いている」という植田監督。大学の研究室には、テープやDVD、映像機材があふれている。
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